作者:ロード・ダンセイニ
書籍名:世界の涯の物語(驚異の窓)
頁番号:139p
ロンドンに住む商人が、怪奇な老人から購入した窓から見える別世界の光景に、心を奪われる。
今くらす世界から覗く、他の世界の景色。ダンセイニという小説家の真髄と、生き様が濃縮された一ページ。
ダンセイニの小説は、ぺガーナの神々に始まる創作神話作品が有名だけれど、ダンセイニの作品の多くは、ロンドン風な都会的感覚に溢れている。
作品の中でも外でも、ダンセイニは決して都会を認めなかったけど、ダンセイニの作品の素っ気のなくシニカルな洒脱さは、近代的な感覚がとても強い。牧歌的なフォークロア創作者としてのダンセイニと、都会的で洒落たダンセイニの、二人の人物が揺れ動きながら、作られたのがダンセイニの小説群のように私には想える。
ダンセイニの作品は、ファンタジックな妖精譚、架空神話によって彩られる一方で、鋭い眼差しに満ちて都会を描いた戯曲や、現実性に基づいた短編も多い。今いる世界から、あちらの世界への想像力による移行も、ダンセイニ作品に多く見られるモチーフ。
どちらの感覚も、ダンセイニという作家を構成する要素で、両方を見なくてはいけない。この一ページは、そんなダンセイニの感覚を作者自らが象徴したような一ページ。
そこに現れているのは、認めがたい現実を見つめながら、同時に架空の世界を見つめる、二重の現実感。
二つの現実を二つながらに見つめる時に、世界のなかで傷を負って生きる人間が、癒しを得られるのかもしれない。
傷つきながら生きる存在と、傷を癒す存在とが、二つの神話要素が同時に自らの中にある時、そこにはきっと大きな神話的エネルギーが生まれるはず。