■一千一頁物語

一瞬を凍らせる短歌やスナップショットのように生きたいブログ

本の一ページを紹介するブックレビュー一千一頁物語 SSよりも瞬間的な創作小説SnapWritte スナップショットの感覚、短歌の精神で怖いものを探求したい…願望

創作◻︎線の上の塔



 過去と現在を結んだ延長線は、地平の中には見当たらない。手に握りしめた杖が砂になって融ける。貸し出されていた世界のすべてが、白く変わっていく。救済を、私は私の中に住まう死体たちに、差し出さなくてはいけない。
 凍りついた地下室。光が、明かり取りの高い高い煙突から、天使の写し身のような埃を透かして、落ちてくる。部屋の隅に飾られた屏風の後ろで、何かが着替えているけれど、誰も確かめた人はいない。天井近く、すれすれの窓から、地面が見渡せて、トリミングされた靴と足首だけが振り子のように運動を続けるのは、通りすぎていくフーコーの振り子だった。
 隠された机の引き出しには、さらに隠された引き出しがあり、隠された引き出しには隠された二重底があり、隠された引き出しの隠された二重底には隠された小箱がある。有限でありながら無限に続くかに思える秘密のマトリョーシカは、住人にとっての何だったのだろう。今や想像するしかない。
 木目を指でなぞりながら歩いていくと、黒い海に出くわす。海は黒々と光を飲み込み、波の頭だけがホワイトで修正したように、白い。行き着く果ての空には、白い円が線で描かれ、円は無数に存在し、円と円が重なった交点に塔が聳え、塔には単性生殖を選んだ人々が幽閉されている。

『スター・ウォーズ : エピソード7 フォースの覚醒』“堕落”を再生産する正義の父



 フォースの覚醒は、父と子というテーマを掲げ、そのテーマに忠実であろうとした映画、だった。けれど、映画自身がそのテーマに過剰なまでに忠実で、それを神聖視してしまった結果、父と子というテーマ自体が抱える欠陥それ自体を、映画は無自覚的(と思えた)に抱えてしまった作品でもあったとも、感じる。


以下、重大なネタバレがあり、かつ、かなり批判的な内容なのでご注意を。











続きを読む

マルグリット・ユルスナール『火』変転する性の墓坑と復活



マルグリット・ユルスナール『火』

 消費を許さない彫刻のような文章の奥底にある青褪めた顔のある物語群。


作者:マルグリット・ユルスナール
書籍名:火
頁番号:32p

 ギリシア神話の硬質な世界を、そのまま何か違うものに見たてた掌編集。まるで複雑なギリシア彫刻のシルエットをぐるぐると見渡すように、ユルスナールは本来の姿にはない何かを、ギリシアの神話に読み取り、挿入した。そこでは過去のギリシアの小道が、さも当然であるかの様に、現代の都市の小道につながっている。

 それはまた、性の可塑性と、突然に顕われる不可能性が、死の周りをクルクル回っているような感覚でもある。

 登場人物たちはギリシア人らしく、同性との間に明白な愛を育むのだけど、みな、心の中で性を自由に変転させていく。女性は男性同性愛者となって男性を愛するし、男性は自らの雄々しい身振りを女性の優雅なそれと認識され、女性は男性であることを疑われる。

 心の中の性は彫刻の様に可塑的で自由だ。

 女のように飛翔していくアキレウスに取り残された男性のような少女の佇む岸壁の印象の強さ。そんな単純化をはねのける文の縺れ。文章が重ねられる度、可能性と不可能性の構図が次々に複雑性を増して、何故か、何か暗く重い墓坑が彫られていく。

 その変身は突然、何かに裏切られる。他人の中に性を読み取る視線が、肉体を絡め取り、翼がもげて落ちる。物語の空気は血の匂いを含み出し、暗い墓溝に身体が落下していく。

 自由にできながら、所有することも変化させることも許されない何ものか。心底の絶望がそこに待っている。個人の世界を許さない、統合された世界が持つ肉体への強制。

 ただ、そこには何かの希望もある。

 落ちていく姿がむしろ飛翔の様でもある姿たち。暗い墓から復活を遂げる予感。そして掌編が、固定されたギリシア世界の読み直しであり復活であるパロディとして描かれていること。

 それ自体が何かの復活を暗示するかの様に。世界全体を読み替える可能性がそこに眠っている。

 アキレウスが自らの明白な性を持たずに、自らとして生きていること。見つめられ、規定させられる、他者の視線への嘲りと全身の反逆。

 冒頭に掲げた一ページは、アキレウスが島から駆け出し、それを女装した男と疑われたミサンドラが見送る場面(二人は恋敵でもあった)。性の可能態と、何かの不可能性が奇妙に交錯し、海が向こうに広がっている。立ち竦んでいるのは、読者であり、立ち竦ませているのも読者ではないか。

 編まれた短編の連続の最後、言葉はサッフォーの奇妙な復活を、死さえ他者から奪い去られた復活を、描いて終わる。
その先の希望は、死と絶望と墓の暗さを知った読者の心臓の中に、託されているのだと私は思いたい。




マルグリット ユルスナール
1992-11

この本ではあまり語られないけれど、シャープの生きようとしたあり方は、ユルスナールの火の中の世界を陰画のような奇妙な形で1人の中に抱え込んだものだったような気がする。性の眼差しから逃れ、自身を変転させようとしながら、性の眼差しを自身の中に取り込んだ結果、変転の不可能性にぶつかった生き方。
記事検索
livedoor プロフィール