彼は薔薇を育てることに心血を注いでいるらしいのだけど、薔薇の形態的な要素、外見については全く関心を示さない。薔薇を育てるには、薔薇の様子に気遣わないといけないのに、外見を評することが全く無いのは不思議なのだけど、この日も、薔薇の奇形に気がついたのは僕が先だったのだ。
 この薔薇一輪だけ双子みたいだよ、ほら、ひとつの茎なのに、真ん中が二つ。僕は居間で新聞を読んでいる彼に、ベランダの開けた窓から話しかける。彼が気づいていないであろう事は指摘しない。すると何故か不機嫌になるから。
 ああ、ほんとだ、珍しいね、時々あるみたいだけど。彼は新聞から目を上げて、眼鏡の位置を調節する。この頃彼は老眼で、僕は心配だった。
 時々?珍しい?どっちなの、それ、えっと、そうじゃなくって、これって、このまま育つ?僕はそうなったら、僕ら二人みたいでロマンティックだな、なんて呑気な事を頭の片隅で考えている。彼は年を取っていたけど綺麗だった。
 ううん、たぶん、ダメだね、大抵片方がもう片方を飲み込むからね、最後には大きな一輪の薔薇になるんだ、たぶん。育てている薔薇の外見に拘らない癖に、知識は豊富なのだ。そういう所がチグハグで、面白い。僕は彼が好ましかった。