消毒の技法

 灰色のポリバケツは酷く重かった。下半分ほどは砂で埋まっている。砂は消石灰か何かで、消毒の効用があるのだというけれど、僕はその内容を詳しくは知らない。ただ、あそこからそちらに運べ、とだけ親方から急に命じられて、ただ、ポリバケツを腕に抱えて運んでいた。春先だというのに日差しは暑い。汗が顎を伝う。
 灰色のポリバケツは重かった、けれど同時に異様に揺れていた。それが更にポリバケツの重さを増すので、僕は辟易とする。消石灰とは、生き物なのかしら?と僕は冗談を思い浮かべるのだけれど、言う相手は今ここにいないので胸の中に言葉は貯まっていくばかりでしかない。異様な状況だ、と僕の一部が言う。暑くてどうにかなりそうだ、早く終わらせて、冷却されたい、と僕の大部分が叫んでいた。僕は多数決の立場を採る。みんなの意見を聞く民主主義ではなくって。
 灰色のポリバケツは、重かった、けれど同時に異様に揺れていた、それはとっても不吉で、僕は暑さで参りそうだった。