過去と現在を結んだ延長線は、地平の中には見当たらない。手に握りしめた杖が砂になって融ける。貸し出されていた世界のすべてが、白く変わっていく。救済を、私は私の中に住まう死体たちに、差し出さなくてはいけない。
 凍りついた地下室。光が、明かり取りの高い高い煙突から、天使の写し身のような埃を透かして、落ちてくる。部屋の隅に飾られた屏風の後ろで、何かが着替えているけれど、誰も確かめた人はいない。天井近く、すれすれの窓から、地面が見渡せて、トリミングされた靴と足首だけが振り子のように運動を続けるのは、通りすぎていくフーコーの振り子だった。
 隠された机の引き出しには、さらに隠された引き出しがあり、隠された引き出しには隠された二重底があり、隠された引き出しの隠された二重底には隠された小箱がある。有限でありながら無限に続くかに思える秘密のマトリョーシカは、住人にとっての何だったのだろう。今や想像するしかない。
 木目を指でなぞりながら歩いていくと、黒い海に出くわす。海は黒々と光を飲み込み、波の頭だけがホワイトで修正したように、白い。行き着く果ての空には、白い円が線で描かれ、円は無数に存在し、円と円が重なった交点に塔が聳え、塔には単性生殖を選んだ人々が幽閉されている。